上手な勤務報告の書き方

概要

勤務報告は、実際の勤務と並んで、相談員の存在意義といえます。相談員本人にとっては勤務した証ですが、勤務報告自体がECCS全体にとって重要な資料となり、他の相談員に活用される可能性があります。ここではよい勤務報告の仕方を、具体例を挙げながら紹介したいと思います。

目次

基本事項

  • 問題や手順を再現できるほどに、できるだけ詳しく書きましょう(理由はこちら)。

勤務報告のコツとその具体例

心がけたい表現

  • 使用したアプリケーションソフトウェア、(特に問題と考えられる)操作の手順、表示されたエラーメッセージや結果などを可能な限り具体的かつ詳細に記述する。
    • 例 「ブラウザーで PDF を印刷できません。」(×)Safari で Adobe PDF 文書を開き、メニューバーで『ファイル』→『プリント…』を選択して印刷しようとしたのですが、白紙しか出力されません。」(○)
    • (×)」で示されている記述だけでは、操作方法の誤り(印刷指示の出し方が間違っている)なのか、事前に特定の操作を行わなければならないのか(例 Adobe Reader の使用許諾契約書に同意する)、Adobe PDF 文書に印刷制限が掛けられているのか、Adobe PDF 文書にデータ上の誤りがあるのか(Adobe PDF 文書ファイルに埋め込まれているフォントデータが原因の印刷障害が少なくありません)、などを区別するのが困難です(特に、質問に対する回答が勤務報告に明記されていないか、明記されていてもその内容が「分かりませんでした」(回答不能)の場合)。
    • なお、「(○)」で示されている記述に対する回答の例については、こちらこちらをご覧ください。
    • 例 「gnuplot で授業のプリントの通りに操作しましたが、グラフが出てきません。」(×)『2.5 140.79 …』(編註 ファイルの具体的な内容。ここでは省略しますが、実際の勤務報告では、ファイルを勤務報告に添付するとよいでしょう)という内容のデータをファイル『foo.dat』として保存し、gnuplot で命令『plot ‘foo.dat’ using 3:1 with points』を実行しました。しかし、作成されたグラフには座標軸が描かれていますが、標本値を示す点が一つも描かれていません。」(○)
    • (×)」で示されている記述のように、単に「指示通り」(上記の例では「授業のプリントの通り」)なことを書くだけでは、他の人がこの問題を再現して確認することが困難ですので、問題の解決が期待できなくなります。また、実は相談者が「指示通り」に操作していると思い込んでいるだけで、実は操作が間違っていた(例 命令やファイル名などの誤字)可能性を否定できません(そのため、問題の指示が掲載されている場所(例 授業の名前・回次)を述べるだけでは不十分です)。もちろん、印刷機の障害の可能性もあります。
  • 最終的にどうなったかを書く。
    • 「席に行ったら直っていました。再発したらまた来てくださいと言いました」(×)
    • 「席に行ったら直っていました。再発したらまた来てくださいと言いました。来なかったので問題なかったと思われます」(○)
  • 場所や位置をはっきりさせる。
    • 機械の故障が疑われる場合には、その機械を特定するための「何か」を明記することが必要です。複合機や iMac 端末の場合には、端末番号を書くのが簡単でしょう。
    • 「スキャンが途中で止まる。再起動したら直りました」(×)
    • 複合機(pr108)のスキャンが途中で止まる。再起動したら直りました」(○)
    • スイッチやケーブルなどもその場所を明記します。故障したスイッチや断線したケーブルは交換対象になりますが、そのためにも、これらのスイッチおよびケーブルを明記する必要があります。
    • 「複合機のタッチパネルが反応しないので、電源ケーブルを抜き差ししました」(×) →電源ケーブルを抜き差ししたのがどの機械なのかわからない。
    • 「複合機のタッチパネル(po108)が反応しないので、タッチパネルのPCの電源ケーブルを抜き差ししました」(○)
  • 印刷で原因不明の不具合が出たらファイル提供をお願いする。
    • gmの勤務報告の2画面目でファイルを添付できる。
  • tutorsに報告するときには、解決できなかった問題を一番上に記入する。
    • 全体報告する場合、未解決問題が報告の要点である。

するべきでないこと

  • ユーザーIDや電話番号を控えて対応を投げない。
    • 業務室は、ユーザー領域をユーザーの同意なしに操作することは(原則として)ないため、「対応をお願いします」と言われてもほとんど意味がない。本人に業務室に行ってもらうのが正着。
    • 「○○がありました。相談者の ID は*****です。対処をお願いします」(×)
    • 「○○がありました。業務室に行くように言いました」(○)
    • 同様に、IDを控えて次の相談員に対応を投げることもしない。これは次の時間の人が困るだけである。教育用計算機システム(ECCS)における ECCS 相談員の権限は一般の人と変わりませんので、相談者の ID や電話番号だけで何か行動をとることはできません(勝手に電話番号などの個人情報を利用してはなりません)。直ちに別の ECCS 相談員の補助が必要な場合には、その ECCS 相談員のもとへ相談者に自らお越しいただくようにしてください。

なぜ勤務報告を 詳しく 書くのが重要なのか?

ECCS 相談員の最も重要な仕事は、教育用計算機システム(ECCS)に関する問題を解決することにあります。この問題は簡単なものから難しいものまで、コンピューター一般に関する問題から教育用計算機システム(ECCS)や個人の所有するコンピューターに特有の問題まで、多種多様です。特に、教育用計算機システム(ECCS)や個人の所有するコンピューターに特有の問題については、Google などで検索しても答えが見つからないことが少なくありません。

また、ECCS 相談員自身も身につけている知識や知恵は人によって様々です。ECCS 相談員の中には、コンピューターにあまり慣れていない人がいるかもしれません。文書作成、表計算やインターネットの使用方法をあまり知らない(例えば、LaTeX は普段から使用しているが、Microsoft Word はよく分からない)人もいるかもしれません。MS-DOS/Windows や UNIX の文字の命令を使用した操作(command-line interface)に慣れていない人は少なくないでしょう。C/C++、Java、Ruby といった特定のプログラミング言語の使用方法を知らない人も少なくないでしょう。ハードウェア、ソフトウェアやファイル形式などの内部構造を熟知している人などそうそういません。

このため、一人では解決できない問題に遭遇することは決して稀ではありません。しかし、他の ECCS 相談員が過去に遭遇した問題とその対応を予め知ることにより、いざ自分がその問題に遭遇しても解決できるようになるでしょう(もちろん、誰も解決策を知らないということもあります)。

そこで役に立つのが、ECCS 相談員が書き残す、数多くの勤務報告です(勤務報告のうち、特に重要なものは「よくある質問集(FAQ)」や「相談員ミーティング」などでも取り上げられます)。もし勤務報告がきちんと書かれていれば、そこに書かれている通りに操作すれば、多くの場合に問題は解決されるでしょう。しかし、残念なことに、勤務報告がきちんと書かれておらず、参考にしたくても参考にするのが難しいようなものが少なくありません。

ここでは例として、(筆者がよく取り組んでいるネタで申し訳ありませんが…)Adobe PDF 文書(PDF)を表示したり印刷したりすることができない、という問題を取り上げたいと思います。相談者は単に「PDF を開けない」と言って相談しに来ることが多いと思います。しかし、勤務報告に書く内容が「PDF を開けない」しかないと、他の ECCS 相談員がこの勤務報告を参考にすることは困難です。問題を検証したくてもできなくなってしまいます。

実際、単に「PDF を開けない」と言っても、その状況、症状、原因や対処法は様々です。例えば、原因には以下のようなものがあります(これが全てというわけではありません)。

  1. (紙切れ) 印刷機(プリンター)の印刷用紙トレイに印刷用紙が格納されていない、または、印刷用紙を使い果たした。
  2. (インク切れ) 印刷機がインク・トナーを使い果たした。
  3. (紙詰まり) 印刷機の内部で印刷用紙が詰まっている。
  4. (残金不足) コピーカードまたは電子マネーカードが挿入されていない。あるいは、最初に挿入されたコピーカードまたは電子マネーカードの残金が不足している。
  5. (印刷機の故障) 印刷機が故障している。
  6. (印刷機指定の誤り) 印刷画面での印刷機の指定が誤っている。
  7. (ページ範囲指定の誤り)印刷画面での印刷するページ範囲の指定が誤っている。
  8. (印刷用紙指定の誤り) 印刷画面での用紙の指定が誤っている(現時点では、A3、A4 判しか使用できない)。
  9. (印刷色指定の誤り)印刷画面での色の指定が誤っている。
  10. 印刷の指示を(出したつもりであっても)出していない。
  11. (処理中) 印刷の処理に時間がかかっている。
  12. Web ブラウザーには Adobe PDF 文書ファイルが表示されているが、印刷対象のフレームが(Adobe PDF 文書のものとは異なる)別のものになっている。
  13. Web ブラウザー(特に OS X 版の Safari)で作業をしていて、表示には Adobe Reaer ブラグインを使用しているが、印刷には(Adobe Reader の機能ではなく)Web ブラウザーの機能を使用しようとしている。
  14. (Web ブラウザーの瑕疵) Web ブラウザーに不具合がある。
  15. Adobe PDF 文書ファイル(*.pdf)の内容がない(最初から白紙である)。
  16. (ファイルの内容の誤り) Adobe PDF 文書ファイルが破損している、または、Adobe PDF 文書ファイルの構造、格納されているリソースデータ(フォントなど)が誤っている。
  17. (ファイル形式の誤り) Adobe PDF 文書ファイルと思われていたファイルは、実は Adobe PDF 文書ファイルではない(例えば、実は HTML 文書ファイル(*.htm)だが、拡張子が「.pdf」になっている。
  18. (アプリケーションソフトウェアの瑕疵) Adobe Reader または Adobe PDF 文書ファイルを取り扱うアプリケーションソフトウェア(例 OS X のプレビュー)に不具合がある。

原因には、利用者の勘違いが絡んでいることが少なくありません。そのため、状況(操作手順を含みます)や症状は「取扱説明書の通り」のような簡略化されたものではなく、具体的であることが望まれます。

原因が違えば、対処法も違います。教育用計算機システム(ECCS)での場合を述べますと、標準的な対処法は以下のようになります(上記と下記とで番号を対応させてください)。

  1. (紙切れ) 生協(印刷機(複合機)の保守担当)に印刷用紙の補充を依頼しておき、相談者には別の印刷機(別の場所に設置されているものでも可)の使用を勧める。
  2. (インク切れ) 生協にトナーの補充を依頼しておき、相談者には別の印刷機の使用を勧める。
  3. (紙詰まり) 印刷用紙の除去を試みる。印刷用紙を除去できない場合には、生協に印刷用紙の除去を依頼しておき、相談者には別の印刷機の使用を勧める。
  4. (残金不足) 新しいコピーカードを購入するか、電子マネーカードに現金を預ける(チャージする)。
  5. (印刷機の故障) 生協に印刷機の修理を依頼しておき、相談者には別の印刷機の使用を勧める。
  6. (印刷機指定の誤り) 印刷画面で正しい印刷機(例 「Main_Mono」、「Main_Color」)を指定してもらう。
  7. (ページ範囲指定の誤り) 印刷画面で印刷する正しいページ範囲を指定してもらう。
  8. (印刷用紙指定の誤り) 印刷用紙の指定を変更する(現時点では、A3、A4 判のみが有効)。
  9. (印刷色指定の誤り) 印刷の色を正しく指定する。
  10. 印刷の指示を出し直す。
  11. (処理中) 10 分程度までは待つ。あるいは、別のアプリケーションソフトウェアや印刷設定を使用して印刷の指示を出し直す。
  12. Adobe PDF 文書が表示されているフレームを選択する。
  13. (Safari の機能ではなく)Adobe Reader の機能を使用する。
  14. (Web ブラウザーの瑕疵) 使用する Web ブラウザーを変更する。あるいは、Adobe PDF 文書ファイルをダウンロードし、Adobe Reader など他のアプリケーションソフトウェアで開く。
  15. 元の文書の内容を確認した上で、Adobe PDF 文書ファイルを作成し直す。あるいは、Adobe PDF 文書ファイルを作成するための設定を見直す。
  16. (ファイルの内容の誤り) Adobe PDF 文書ファイルを作成し直したり、再送信したりする。あるいは、別の方法で Adobe PDF 文書ファイルを作成する。但し、Adobe PDF 文書ファイルを作成し直さなくても、別のアプリケーションソフトウェアを使用することで開けることはありうる。
  17. (ファイル形式の誤り) Adobe PDF 文書ファイルを保存し直す。
  18. (アプリケーションソフトウェアの瑕疵) 別のアプリケーションソフトウェアを使用する。

もちろん、標準的でない対処法(例 Adobe PDF 文書ファイルをバイナリーエディターで開き、誤っている内容を訂正する)が適用されることもあります。

勤務報告に書くのがよい具体的な内容は、問題やその状況によって異なりますので、一概に決めることはできません。いかに適切な内容を過不足なく盛り込むかは、ECCS 相談員の知識や知恵に依存します。知識が不足していると、本当は重要だったことを不要なことと見なす危険性が高まります(初心者が何か問題のある行動をとったにも関わらず、本人がその自覚を持たず、「何もしていないのにパソコンがおかしくなった」と言い張るという状況に似ています)。そのため、よい勤務報告を書くには、コンピューターに関する勉強も大切です。

しかし、勤務報告に盛り込むべき内容がよく分からなければ、とりあえず、過去の勤務報告や対処マニュアルを参考にするとよいでしょう。また、必要かどうかよく分からないものは、ためらわずに書いてみるのもよいでしょう。本当は不要だったことが勤務報告に書かれるということは大した問題ではありません。読む人が単にその内容を無視すればよいからです。一方で、本当は重要だったことが勤務報告に書かれないということは問題です。今までに寄せられた問題や状況から明記されていない問題や状況の詳細を推測することもある程度はできるものの、完全ではないからです。

もしかすると、自分の勤務報告の様式が、(より勤務期間の長い人を含めて)他の人より優れていると考える方がいらっしゃるかもしれません。その場合には、ぜひ提案していただければ幸いです。あるいは、本文書を編集していただいても構いません。

公開日
更新日
編集者
荒田 実樹